翌日は快晴。 久しぶりのベッドで心地よく眠り、起きた時にはすでに朝の9時を過ぎていた。 昨夜発見した、キャビンのゲストブック。 そこには、ユーコンから流れてここに辿り着いた人達のメッセージが、たくさん寄せられていた。 色鉛筆で描かれたプロ級のイラストや、面白い漂流記。そして、外国語で書かれた物もあった。 日本人の書き込み、多数。 1998年の日付から残っていて、何度もここを訪れている人の名前もある。 みんな、このキャビンは豪華だ、素晴らしいと書いてあった。 もちろん私も、ノートに書いた。 そのメッセージは、 イサオさん行方不明。どこにいるんだ、イサオ!! ここを見ている人で実際このノートを読んだ人、ぜひ私に連絡して欲しい。(いないか。) 朝の支度を終え、ぼーっと窓の外を見ていたその時、人が通った。 第2ユーコン人、発見!! 興奮して外に出ると、20代後半くらいのカップルだった。 2人はフェアバンクスに住んでいる夫婦で、カナダのドーソンシティから出発して昨日ここに着いたらしい。少し離れたもう一つのキャビンの方に泊まっていると言った。 とてもフレンドリーな人達。 しかし私は、その女性を見た瞬間から、どうしても気になって仕方なかった。 この女性、お腹が大きい。 妊婦? いやいや、まさかね。 だって、ユーコン川をカヌーでここまで来てるんだし、今日は9日目と言ってたし。 きっとお腹だけ太っている女の人だ。アメリカ人だから、あり得る。 しかし2人が去って、後でやって来たフォレストレンジャーから衝撃的な真実が明かされる。 あの人、妊娠7ヶ月。 な、なんと! 7ヶ月のお腹で、ユーコン川下りですか。 恐るべし、アラスカ人。 フォレストレンジャーは、今日も親切。 子供達の写真を撮り、普段はイーグルに住んでるからとメールアドレスをくれた。 彼に、この仕事は好きかと聞いてみたところ、 「もちろん!面白い人達に出会えるし、こんな大自然の中に住めて、しかもお金がもらえる。」 と笑っていた。 そんな生活も、アリかな。 ちなみに彼は7年間ここで働いているが、 「チャーリー川を下ってきたのは、10代の子が一番若かった。8歳や5歳なんて、こんなチビッコは今まで見ていない。」 と言っていた。 やはり、最年少記録か? 準備をし、フォレストレンジャーにお礼を言って、ようやく出発したのは正午を過ぎた頃だった。 ユーコン川は、やはり流れが速かった。 チャーリーで、あんなに苦労したのは嘘のよう。 漕がなくても、どんどん進む。 ユーコン、楽チン! ああ、イサオさん、今頃どこへ? でも昨日よりはずっと、イサオさんは大丈夫という気持ちが強い。 彼は先にサークルに行って、私達を待っているハズ。 そう確信してるから、リーガンと2人冗談さえ言い合うようになる。 イサオさん、本書くって言ってたもん。 きっと最後に、イベントが欲しかったんだよ。 そうだよ。こんなウルサイ家族から離れて、一人孤高に、またムズカシイ事でも考えたかったんだよ。 きっと、そうだ。 そうに違いない。 そんな事を言いつつ、ラフトは西へと進んでいった。 途中、風が強くなってきた。 「タープを帆の代わりにしたら、もっと進むかも。」 リーガンの提案に、ムサシの目が輝く。 帆走作戦、開始。 風に煽られ、ラフトのスピードアップ! 速い速い! ムサシは最高の笑顔を見せる。 アラシもダディのサポートで、帆を張るお手伝い。 いいね、いいね〜。ホントに漂流している気分。 私達のラフトは、どんどん進む。 イサオさんを探すためにも、今日中にゴールのサークルに到着したい。 食事の時間を短縮するため、昨夜リーガンが大量のケサディーヤを作ってくれた。 それを食べ、昼寝をし、読書やトランプやゲームをしながら、ラフトはどんどん進んでいった。 気持ちよく、ウトウトしていた時に、 「わー、熊だ!」 リーガンが叫んだ。 見ると山の方、何か黒い物が動いている。 おおー!ホントだ。熊だ!! 黒熊は、あっと言う間に山の中に姿を消していった。 見ましたよ、熊。 よかったよ。最後に見れて。 こんな遠くからなら襲われる心配もないので、とっても嬉しい。 他には、鮭を獲っているこんな仕掛けを何回も見た。 鮭を獲りに来る、モーターボートもよく見かける。 でも予想してた程、カヌーはいなかった。 あの先に出た、妊娠アラスカ人カップルを一度追い越しただけ。他にはいなかった。 カヌーイストの憧れの地のハズなのに。 いったい、みんなどこよ? ラフトの上に10時間。 その日はなんと、1日で53マイルも進んでいる。 夜の10時半を過ぎた頃、とうとうサークルが見えてきた。 双眼鏡で見たら、岸の方に赤いカヌーも見える。 イサオさんだ!! やったー! ついにゴール!! 岸に上がると、テントの中にいたイサオさんが走ってきた。 3時間前に、到着したらしい。 サークルシティで、シャワーを浴びる。 蛇口を捻ると、水が出る。これって、素晴らしい事だよ。 シャワーを浴び、すっきりしてから、ユーコンを眺める。 夜中1時の夕焼け。 その時出ていた月は、まん丸でとても美しかった。 みんな、ありがとう。チャーリーもユーコンもありがとう。 一生忘れられない旅になりました。
by shs_merumo
| 2007-08-08 18:14
| アラスカ 川下り
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プロフィール
メルモ アンカレッジの山の家で夫と息子2人と生活中。 98年 地元島根県隠岐の島でALTをしていたリーガンと知り合い、結婚 99年 アメリカ移住。テキサス州ダラスに7年 06年 夫の思いつきでまさかのアラスカ引越し 20015年9月よりブログを引越ししました。 新しいアドレスはこちらから。 http://alaskairoiro.blog.fc2.com アラスカ観光のお手伝いをします。 メールで相談して下さい。 ブログの感想なども嬉しいです。 AKiroiro@gmail.com ホームページ Sweet Home Sweet リーガン(夫) アウトドア好き。冒険大好き。特に家族を巻き込んでのアドベンチャー大得意。 笑顔が基本。正義感が強く、心の優しい戦う男。 ムサシ(16歳) ギター少年 アラシ(13歳) ドラム少年 カテゴリ
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